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会社の技術ブログ運営を成功させる方法を考える

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おことわり

この記事では企業のテックブログを円滑に運営することの難しさを取り沙汰しているが、筆者はどちらかといえば企業テックブログの推進派であることを述べておきたい。

実際に、所属企業において、昨年2021年に社内ブログ(社外非公開)を100件以上、企業ブログ(社外公開)に20件以上の投稿を行っている。

それに加えて個人ブログ(本サイト)にも60件以上の投稿をし、Qiitaに投稿した記事はエンジニアフェスタの優秀賞も獲得した。

過去には働き方をテーマにしたnoteのコンテストでも優秀賞を獲得したし、小学生のときは読書感想文でも賞をもらっていた。

本を読むことも文章を書くことも明確に好きであり、ブログ投稿は企業においてもぜひ推進されるべき活動だと思っている。

本題

How (some) good corporate engineering blogs are written

元記事リンク

英語の投稿だが、けっこうボロクソに書いていて面白い。

…, most corp eng blogs are full of stuff engineers don’t want to read. Vague, high-level fluff about how amazing everything is, content marketing, handwave-y posts about the new hotness (…), etc.

ここで、high-level fluffは「きわめて表面的」、handwave-yは「重要なディティールや論理考証を省いた」などと訳して問題ないだろう。

そしてサラッとcontent marketingと書かれているが、当然として営業バイアスのある技術ブログはエンジニアには読まれない。これは私も強く同意するところだ。

イケてないブログを運営する企業の特徴

この筆者は、イケてる企業ブログを運営している組織は〈記事のリリースに対する承認プロセスが迅速〉だと説いている。

反対に、イケてないブログを運営する組織の特徴はたくさん書いてあるものの、総じて〈承認プロセスが鈍重〉だと述べている。

なんというか「それはそう」という感じだが、ひとつだけ興味深い項目があった。

Leadership may agree that blogging is good in the abstract, but it’s not a high enough priority to take concrete action

(意訳)トップがブログを書くのはよいことだと〈なんとなく〉言ってはいるものの、優先度が低く具体的な措置はとられていない。

たしかに、これはありそう。トップが雰囲気だけ出して事が成るのであれば日本は今ごろGoogleをしのぐ企業ばかりになっているだろう。

How to Motivate Employees to Blog for Your Company

元記事リンク

いきなり本題と逸れるが、タイトルで to Blog としていて、なるほど Blog を動詞で使ってしまうのもありなんだな、と思った。

閑話休題。この記事の喩えは面白い。

Starting a blog is a lot like getting a puppy.

ブログをはじめるのは子犬を飼い始めるようなものだと。最初は夢中になるが、しばらくすると現実が見えてくる。ちゃんと育て上げるには並々ならぬ労力を注ぐ必要があることを示唆している。

Incentives are good, but not great. Offering monetary incentives for every published blog post can lead to issues; it’s hardly scalable and tends to create a larger number of low-quality posts. Instead, offer blogging as a personal branding opportunity, recognize top authors in company meetings or newsletters or consider offering a less traditional incentive, such as small amounts of PTO for each blog post published.

個々の記事に対してインセンティブを与えても粗製濫造につながると説いている。

そのかわりに、個人ブランディングの機会としてブログを活用させたり、トップの著者への社内表彰が勧められている。さらには、より新しいインセンティブ形態として追加の有休付与がアイデアに挙げられている。

CTOがテックブログなんとかしてって言って一ヶ月が過ぎました

元記事リンク

やはり目的感がない活動はむずかしいことを示唆する一節。

まず、「我々はどうしてテックブログをやっているのか」という理由を明確にする必要があります。目的が不明確な行いはいずれ空中分解しますが、目的さえ知っていれば歩く方向を定めることができるはずです。

元記事では採用に結びつけることをブログの立ち位置としている。ここで私が気になったのは、ブログは遅効性のメディアであり、定量的な成果に結びつけることが非常に難しいという点だ。

もし、あなたがトップダウンでブログ運営を指示するのではなく、ボトムアップで会社ブログを活発化させたい1人のエンジニアの立場だったとしたら、どうだろうか。遅効性ゆえ継続が必須で、かつその成果が間接的で直接的・定量的な成果を示しにくいとしたら、その旗振りはなかなかに厳しい道だ。

その目的までもをボトムアップで据えていこうとなると、なかば狂信的な営みが必要であるともいえるだろう。

このあたりは以前したツイートにもつながっている。

テックブログ、登壇、イベント…企業が技術広報を継続して行うためのガイドライン

元記事リンク

上のSmartHRの記事で引用されていた記事。私がツイートで書いたのと同じ観点が述べられている。やはり重要なのはインセンティブ設計だということ。

エンジニアの主業務はあくまで開発です。 その主業務たる開発タスクですら遅延することがありますから、「今週は登壇スライドを作らないと」とチームに言わせてあげられる環境を作らなければ、技術広報に協力することはメンバーにとって、ただただ”損”になってしまいます。

そのうえで、首肯するしかない内容がいくつも書かれている。

別の業務上インセンティブを組み込む

ブログの効果は遅効性だが、即時性のある別のタスクに絡めることでインセンティブを高めるアイデア。メインの執筆者がおり、その一部をタスク切り分けするシーンなどでは活用しやすいか。

発信をメンバー個人の資産にする

これもそう。単なる損にしないためには個人ブランディングに資する活動に昇華してあげる必要がある。

感情のケアも大事

”貢献感”を演出する テックブログの公開や登壇の資料/写真は、全力でスタンプ・コメント・シェアで歓迎して、”会社やチームに貢献した感”を演出しましょう。 協力してくれたエンジニアが心理的に「貢献して良かった」「楽しかった」と感じることも、引き続き協力してもらえる要因になります。

個人的にメチャクチャ大事だと思ったのがこれ。

ただ書いて「あ、書いたんだー」みたいな感じで終わると超おもしろくない。文章を出力するという行為はこれまでの人生における訓練の賜物であって、そこを軽く扱われると「はい、もう私は自分の自分による自分のためのブログでやりまーす」となってもおかしくない。

できるエンジニアと評価されたいなら、企業ブログを書け!

元記事リンク

問題提起の観点で取り上げる。

開発者ブログが立ち上がった際、「なぜ企業のHPでやるのか?」といった意見が社内で挙がりました。

この記事の結論としては「企業のセルフブランディングのため」とされており、私もその理由付けに異論はない。

では、企業のセルフブランディングが〈エンジニア個人〉にとってどこまで寄与するだろうか。

ここが難しいポイントだと思う。エンジニアの転職サイクルは速く、セルフブランディングが運よく成就したとしても、その恩恵を自分が享受できるとは限らない問題がある。

そして、ブランディングは非情なことにオストワルド成長である(結晶粒の成長において、大きなものがより大きくなり、小さなものは消滅していく現象を指す。筆者が専攻していた材料科学の用語だが、言い得て妙な表現なのでよく使っている)。

もし、現時点で鳴かず飛ばずの状況だとしたら「やっても無駄だ」のムードが場を支配し始めてしまう。

イケイケにしたいからブログをやりたいのに、イケイケじゃないからブログがうまくいかない矛盾がそこにあり、どこかにブレークスルー的な存在が求められている。

それはインセンティブを度外視した、いわば狂信的な振る舞いが求められる立場でもあるだろう。

テックブログを続ける試行錯誤―5年目の平日毎日更新テックブログ運営者の視点から

元記事リンク

この記事のメインは以下だと思われる。

技術記事を書くことを全エンジニアの業務にすべきなのか問題

そもそも技術ブログを書けるようになりたいとも思わない人がいる観点の指摘。

元々技術ブログを個人で書いていたり、趣味で技術系同人誌を書くような一部の意欲の高い人を除き、職業エンジニアは通常業務として不特定多数が読むことを前提とした文章を書く訓練を受けていませんし、その人がスキルアップしたいポイントであるとも限りません。

個人的に最初に読んだときは「文章がうまくなりたくないやつなんているのか?」と思ってしまったが、これを「足が速くなりたい」とかに置き換えると多少は理解できた。

たしかに足は速い方がいいが、それのために割く労力や苦痛を伴うくらいなら速くならなくてもいいと思うからだ。

文章を書くのがそんなに得意でない人にとって、そもそもアウトプットを上達させる過程が苦痛すぎるケースもあるのだろう。

こればっかりは書くのが好きな自分が腹落ちして理解することは難しいが、仮にそういう人が組織の大多数を占めるのであれば、職能が多様化できていないことが問題の本質で、ブログ運営の方法よりも採用活動が失敗していることの反省をしたほうがよいかもしれない。

さらにピンとこない部分

以下に関しては、私は懐疑的な立場だ。知見を広めるという観点で、社内と社外に本質的な差があるとはあまり思えない。

技術記事執筆の能力とエンジニアとしての業務文章力はそこまで強い相関がないし、記事執筆能力は通常業務では保有してなくても困らない(ので積極的に伸ばすメリットを感じにくい)

この文に対する補足として、社内であれば誤解があっても直接フォローできる点が挙げられていたが、それは読む側に負担を強いているだけではないかと思ってしまった。

リモートワークが推進されている昨今、テキストベースで齟齬のない意思疎通をする能力の重要性はますます高まっており、社内外に通用する文章構築能力は不可欠なものだと感じる。本人は「困らない」のかもしれないが、周りの人間は確実に「困っている」だろう。

インセンティブの与え方について

この部分は見えていない観点だった。

まず、元記事にもあるように前提として業務時間を使って記事を執筆して良いというのは大前提とします。ここには特に議論の余地はないでしょう。

しかし、今度は**業務時間を使って記事執筆の時間が取れる人と時間が取れない人の間で不公平が発生します。**どちらも業務命令通りの仕事をこなしているのに、技術記事執筆タスクを割り当てられた人はそうでない人に比べて追加のインセンティブをもらうことになりますので、極論「開発業務をやるよりも、技術記事をひたすら執筆している方がインセンティブの分だけお得」ということになってしまいます。

私は先述のツイートにおいて〈タスクは常に余力に応じてアサインされる〉前提で考察を行っており、記事を書くことが人事評価でのリスクになりうると論を展開していた。

対するこちらの記事では、アサインするタスクの量が本人の能力見合いよりも少ないことがあり得る環境では、逆の不公平が発生するとしている。

私としては、このあたりは考えようだと感じる。人事評価の味付けにもよるが、以下のようなバランス調整がはたらく気がする。

  • タスク量が多い→成果もそのぶん出せる→ブログの有無に関わらず評定は向上する
  • ブログを書く余裕がある→他のタスク量が少ない→本務の成果が少ないので評定はトントン

もちろん、ブログによるインセンティブがドラスティックな場合、不公平なのは間違いない(不公平それすなわち悪だとも思っていないが)。

おわりに

企業ブログの直接的・定量的な効果測定は難しいが、ブログが退廃している場合に採用に悪影響を及ぼすのは間違いないだろう(仮に私が転職するとして、ブログが残念な企業に行こうとはまったく思えないし、そう思うのは私だけということはないはずだ)。

リモートワーク化が進む中、文章化して意思伝達するスキルの重要性はますます高まっている。そして文章能力は一朝一夕に向上するものではない。

つまり、社内で望み薄なナーチャリングをするより、自然体でもドンドン書くような人を採用でバンバコ集めて、一気にブレークスルーを起こしてしまうのが唯一の解だと私は思う。

一定人数あつまってメディアとしていったん強力になりさえすれば、あとは強い人が強い人を引き寄せる現象で正のスパイラルが回るはずだ。

いろいろ思案したものの、身も蓋もない話になってしまったが、もう夜も遅いので今回は以上。